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2019/11/12 21:53

住んでる町の近くで作られている焼き物ということもあって幼い頃から何となく耳にしたことがあった『小代焼』のこと。
熊本県の北部小岱山麓で約400年前に誕生した九州を代表する陶器です。

私たち夫婦が初めて小代焼にちゃんと触れて向き合ったのは、今から6.7年前のことでした。それは他界した祖母から譲り受けた数枚の小代焼がキッカケに。その中でも特に惹きつけられたのが、力強くも自由に描かれた模様がとても印象的な一枚でした。
それから小代焼のことが気になり、どこの窯元で作られた器なのかを調べていくと、小代焼ふもと窯で作られたものだということが判明。
私たちはこの器がどんな場所で、どうやって作られているのか知りたくなり、初めて窯元見学をさせていただいたのが、この小代焼ふもと窯でした。

ふもと窯の窯主である井上泰秋さんは、後進の育成にも積極的に取り組みながら50年以上の作陶歴の中で数々の賞を受賞されており、更に熊本国際民藝館館長や熊本県民芸協会会長も務められておられる小代焼の第一人者 。
展示場2Fには、貴重な古作の小代焼がギッシリと展示されており、これまでの歴史が積みかなさって作られた空間は、まさに博物館のようです。

作業場を見せていただくと、小代焼の中でも最大級の6袋の登り窯が。1袋約1000点が入るそうで、その大きさがどれだけ巨大なのかが伺えます。


小代焼は、青小代、黄小代、白小代、といわれる微妙な発色技法が使い分けられ、釉薬の深い美しさと自由奔放な流し掛けの模様は、器形と調和して素朴な中にもダイナミックな味わいがあります。

一方、2代目でもあり息子さんでもある井上尚之さんの作る小代焼は、初代とはまた異なる印象で小代焼を守られています。
尚之さんの作る焼き物は、イギリスの伝統的な技法スリップウエアを取り入れたものが主軸に。
小代焼の古作にある筒描きと重ね合わせられたスリップウエアの小代焼は、多くの方々を魅了しています。

一枚一枚、数多くの工程を重ねて、丁寧に作られていく焼き物。
小岱山のふもとの土を使い、使われる釉薬は地元の藁を燃やしたもの。
その他にも天草陶石や、阿蘇の赤土を化粧土として用いて、材料のほとんどが熊本県内で賄っているんだそうです。

祖母から受け継いだ小代焼は、予想以上に熊本がギュッと詰まった器だったのです。

それから私たち夫婦の“器”に対する見方や考え方が一変。
作られるそのタイミングによって、その時の温度や焼成条件で個性が生まれ、色の変化や形が微妙に異なる中で選ぶ楽しみが芽生えたのです。
少しずつ、お気に入りを集めていこうと決めた瞬間でした。
たくさんの時間を費やして、ようやく出来上がった一枚の器。
今では我が家の食卓では数十年の長い年月を超えて、小代焼ふもと窯初代と2代目の器が並んで食事を楽しんでいます。